60年代初頭から頭角を現し、半世紀を経た今でも次回作に思いを馳せるような映画監督、シルヴァーノ・アゴスティ。フィクションとノンフィクションを問
わず、たくさんのフィルムを創作してきた彼は、驚くべきことに、脚本から撮影・編集・公開まで、その創作プロセスのほぼすべてを自前の製作会社と映画館で行っている。誰かに頼まれて撮るなんてことがないぶん、映画への情熱とアイデアと遊び心は、とても純粋で生半可なものではない。イタリア国内外の巨匠たち が彼に一目置くのも不思議ではない。
また、アゴスティは作家・詩人という顔も持っていて、これまでに数多くの著作を、これまた自前の出版社から世に送り出している。地域住民を集めた詩の創 作と朗読のイベントを定期的に催している彼から発せられる言葉は、表現としては易しいのに、内容はとても奥行きがあって、読み手の想像力を鋭く刺激する。
イタリアの直木賞と言われるストレーガ賞のような、多くの文学賞にノミネートされたり、受賞したりしているのもうなずける話だ。
映画と文学。彼を総体的に捉えるには、そのどちらを軽視することもできない。しかも彼の場合、この二つのフィールドはそれぞれに独立したものとして存在するのではなく、自在に行き来しては刺激を与え、相互に反応させあうようなものである。ジャンルの垣根をひらりと飛び越え、映画にも文学にも同じスタンス で向かい合うその姿は、僕たちのようなグループにとって、もちろんとても刺激的だ。
そんな芸当は、表現がそれこそ自前の哲学と信念に裏打ちされているからこそできることなのだろうと思う。
どこにも、誰にも、依りかからない。どこにも、誰にも、おもねらない。
イタリアで最も重要なインディーズの表現者。シルヴァーノ・アゴスティを形容するのに、これは決して誇大な言葉ではない。
どのように受け入れられるかはわからないが、一人でも多くの人に彼の活動について知ってもらえる機会を作りたい。僕たちはそう思って、アゴスティの表現活動をできる限り総体的に紹介するよう努めている。