シルヴァーノ・アゴスティ 独占インタビュー③

『罪のスガタ』 邦訳出版記念インタビュー  目に見えないファシズムがある

2009年11月30日、ローマ、映画館アッズッロ・シピオーニ前。午後5時、大雨の中シルヴァーノ・アゴスティ氏が自転車で登場。映画館の開館作業を行い、キャッシャーの前に立ったアゴスティ氏。携帯電話のカメラによる写真撮影を終えた後、インタビューが開始する。

ハムエッグ大輔 こんばんは(よい夜を Buona sera)、アゴスティさん。
アゴスティ よい人生を(Buona vita)。
ハムエッグ大輔 (相変わらずだなあ、と笑いつつ) またインタビューができることになってとてもうれしいです。まさに今日、翻訳されたあなたの本としては二作品目となる『罪のスガタ』が日本で発売されました。この本は三つの小説をまとめたもので…。
アゴスティ 裁判官、被害者、殺人者だね(下の写真はそれぞれオリジナル版の表紙)。
ハムエッグ大輔 そうです。さて、今回は訳者であるポンデ雅夫のほうからも質問状を預かってきております。それに則して質問していきますね。まず、なぜ三部作となったのでしょう? どのような意図があるのですか?
アゴスティ 権力のある三人の男、一人は裁判官、一人は官僚、一人は大統領。この三人の男たちはみんな違ったタイプの犯罪者なんだよ。それを表現したくって。まず、裁 判官は無意識の犯罪者。官僚は自己に対する犯罪者。なぜなら、彼自身が彼に罪を犯すものなんだ。自殺というわけじゃないけど、彼自身の罪。三人目は、罪を 重ねて、キャリアを積んで、大統領にまでなる。彼はすべての政敵を殺す。だから、三人とも人生からもっとも遠い存在なんだ。人生というもののまさに対極に いる。
ハムエッグ大輔 ぼくもこの三つの小説を読ませてもらいました。人生を謳歌する『1日3時間しか働かない国』とは…最終的には共通のテーマでもあると思うのですが…、この三部作はかなり異質の作品だと感じました。
アゴスティ そりゃ違うよ。真逆さ。キルギシアの人々はみんな優しくて善良で…、でも今度の小説の三人の主人公は、高い社会的地位に恐ろしい犯罪性を隠している。彼ら の女性関係も非常に興味深いんだよ。裁判官に特別な女性はいない。たまに売春婦を買うだけ。官僚には妻一人と愛人一人。大統領は…出会う女性全員。でも一 人だけ違っていた。それは彼が殺人者であることを見抜いた女性。そこで彼は彼女と結婚する。そしたら誰も彼を訴えるものはいなくなる。

ハムエッグ大輔

「私たち人間は誰しもが、裁判官、犠牲者、殺人者になりえる」とコメントされているとお聞きしましたが。
アゴスティ そう。たとえば『殺人者』を読んだら、自分も殺人者になることがわかるんだ。なぜなら、殺人者には特殊な能力があって…。ここではそれは何か言わないけ ど、そんな能力があったとしたら、みんなこう思うんじゃないかな。「ああ、なんて素晴らしいんだ。でもきっと悪人だけを罰することにしよう」。でも実際は 悪人だけを殺すにしても、殺人者は殺人者なんだ。
ハムエッグ大輔 原作本の話になるのですが、この挿絵もおもしろいですね。『裁判官』にはフランシスコ・ゴヤ。『被害者』にはパウル・クレー。『殺人者』にはあなたの息子さんのイラストですか?
アアゴスティ えーっと、ゴヤの絵(左下)は最も法というものに似ていたから。白と黒で描かれているところや、ペンのタッチがね。パウル・クレー(中 央下)は自由な精神、人生に似ているから。でも、狂気とも似ている。そしてロレンツィーノの絵(息子の作品、右下)。彼がこれを描いたときは四歳だった。 理性はまだ持っていなかったけど、創造性は持っていた。だからすばらしいものを創り出すことができたんだ。例えば校長が叫ぶときの絵はすごく奇妙で、衝撃 的だと思う。
ハムエッグ大輔 なるほど、おもしろいですね。ところで、この作品を作った時は1990年代の最初ですよね。約20年の時が経ったわけですが、この社会やそれが持っている問題に、何か変化はありましたか?
アゴスティ うーん…。根本的には何も変わっていないと思うよ。権力者と被支配者の関係は。そんなわけでベルルスコーニはまだのさばっている。およそ権力者や政治家たちは、人生というプロジェクトにとってもっとも意味のない存在さ。真に独立した状態で生きているぼくには、この20年、権力に何の変化も見出せなかった。 昔はファシズムがあって、今は目に見えないファシズムがある…。空や大地といっしょで恒常的なものなんだろう。変化などないんだよ。
ハムエッグ大輔 前のインタビューでも同じようなテーマのことを言っておられましたね。では、そんな変化のない現代社会において、たとえばアゴスティさんが注目している作家さんはいますか?
アゴスティ うーん…、イタリア人ならエッリ・デ・ルーカ(Erri De Luca)かな
ハムエッグ大輔 ナポリの作家さんですね。元ロッタ・コンティーヌア(Lotta continua、「闘争は続く」の意)の。
アゴスティ そう。あと外国人ならガルシア・マルケス。彼は『百年の孤独』という人生の書を創り出したんだ。でもいちばん好きなのは人の顔を読むことだよ。悲しい顔、優しい顔、疲れた顔…。この世界でもっとも偉大な作家は自然そのものなんだ。
ハムエッグ大輔 では、最後に日本の読者のみなさんにメッセージをお願いします。
アゴスティ この3つの小説を読む前に…、それぞれの小説の前置きとして書いてあるこれらのフレーズの意味をよく考えることをおすすめするよ。

まず裁判官は「罪を意識させることこそ、唯一の罰である」(La sola condanna possibile é la consapevolezza del delitto.)。

被害者は「『それで人間ていうのは?』『自分自身を信じることができる生き物、そして、自分の運命を愛することができる生き物のことさ』」("E gli esseri umani?" "Che possano credere in se stessi, che possano amare i loro desideri...")。

そして殺人者、これがいちばん大事。「人間を閉じ込めている牢獄は目には見えない。だからこそ、その檻は破ることができない」(Le gabbie che racchiudono gli esseri umani sono invisibili, per questo le loro sbarre risultano invalicabili.)。

これらの意味をよく考えて、真の意味での自由というものを探求するんだ。つまり、誰だって4歳のときには最高傑作を創り出す可能性がある。なのにそれがだ んだん仕事のための商品と化してしまう。これも似たようなことを前のインタビューで言ったかな?ぼくの作品は小説にしろ、映画にしろ、同じ宇宙の源から生 まれて来るんだ。

(おわり)


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